漆黒の闇が広がる『バリアフリーな家』 いつの時代も憧れの秘密基地
設計者のコメント
千葉県山武市、閑静な住宅街に計画された夫婦のための住宅です。車いすを利用される建て主にとって生活しやすいことはもちろん、一番の要望は『心が安らぎ落ち着ける空間であること』でした。安息の場に相応しい、黒のガルバリウム鋼板で覆われたスクエアな外観、黒い内装に白木の家具だけが林立する内観は、一切の装飾を捨て去り造形の単純化を突き詰めた最終形です。壁と天井はマットに、床は艶のある仕上げとすることで光を反射・吸収させ空間自体を照明装置化しています。太古の昔に人類が本能的に住居として選んだ洞窟、幼少時代なら秘密基地、大人ならこもり部屋、いつの時代も憧れの存在である隠れ家のようなバリアフリー住宅です。
建築主のコメント
この家を計画する際に萩原さんへお願いした基本的なコンセプトは洞窟でした。地上に誕生したばかりの人類が住居として選んだ、狭く薄暗い洞窟です。その後プランの提案があった訳ですが、建物の外観・内観に関しては私の希望に合致していたものの、照明に関しては「ダウンライトのみでしかもこんなに数が少ないのはどうなんだろう?」というのがその時の正直な感想でした。照明はごく普通に設置しておいて部屋を暗くしたい時にダウンライトに切り替える、という使い方をイメージしていたからです。また、萩原さんからは「照明は白熱灯です」という話もありましたが、私は「住宅の照明なら蛍光灯が当たり前」と思っていました。エコの問題やメンテナンス、ランニングコストの点で蛍光灯が勝るからです。けれど「この住宅のコンセプトから言って白熱灯しかありませんよ」と強く説得され、その提案を受け入れることにしました。そしてこの家で半年ほど生活した訳ですが、実際に暮らしてみると実に快適です。蛍光灯の薄っぺらな白々しい光に比べると白熱灯の光には生命感すらありますし、薄明かりの中で過ごす夜は至福です。

- 設計概要
建築場所:千葉県山武市
主要用途:専用住宅(新築)
家族構成:夫婦
構造規模:木造平屋建て(在来工法)
敷地面積:167.37㎡(50.62坪)
延床面積:58.80㎡(17.79坪)
竣 工:2006年
撮 影:河村宏一
- メディア
雑誌掲載:関東の建築家インデックス
和/空間BEST100
神奈川県の建築家とつくる家
- 受賞
和/空間公募入選
エアスタイルコンテスト特別賞